Sundayカミデ「あし」を読んで レビューもらいました
先日9月4日にリリースされましたワンダフルボーイズのボーカルSundayカミデソロアルバム「MY NAME IS!!!」についています小説「あし」
この文庫本にレビューをいただきました。普段音楽の視点でしかレヴューを見ていないので、これは新鮮です!ご紹介します
「シュールなようでリアルな物語」:SUNDAYカミデ『あし』を読む
SUNDAYカミデ『あし』を読む。とても不思議な魅力がある物語。
この文庫本は書店では買えない。SUNDAYカミデさんのアルバム『MY NAME
IS!!!』(WAKRD-039)で、CDとセットになっている。CDと本のセットというのは、これまでも例がなくはないが、ミュージシャンが自ら書いた小説とのセットというのは、比較的珍しいかもしれない。
文庫本のカバーには、イラストの中にタイトルと著者名が隠れたように描かれている。カバーには著者の紹介はあるものの、あらすじや目次やあとがきといったものはない。そのため、あまり先入観を持たずに読み始めることができる。
読んでいくと、「あし」、「あし2」といった見出しとともに、短いエピソードが少しずつ語られていく。すべての物語は時系列でつながっていて、怪我をした「僕」の「あし」をめぐる物語だということが分かる。
最初は、SF小説や幻想小説のような雰囲気で進んでいく。冒頭「僕」は監督に、「試合に出たかったら、いけ。」(p.3)と言われてある街を訪れる。そこは工場街。自分でもなぜそんなところに来たのか分からずに戸惑っていると、バレーボールチームの女の子がある工場に入っていくのを見つける。彼女を追って工場に入った「僕」が目にした光景は「全員明らかにスポーツ選手だった。内職のような事をしてる人」/「明らかにスポーツ選手が働いている」(p.8)。
そして「僕」は、「ネジにボルトをはめ、それに油を一滴垂らして、アルミの箱に入れた」(p.9)という作業を繰り返して、自分の順番を待つ。ちなみに、ここまで「僕」がスポーツをやっているらしいことは分かるのだが、どんなスポーツをしているのかは謎である。
その後「僕」は夜の12時頃にラーメンを食べ、治療を受け、終電がなくなった街を歩き、幼なじみのバイクで真夜中の海に向かう。
このままどういう話になるのかな、と思っていると、そこからはエピソードは徐々にリアリティを増してくる。応急処置を受けての大会への復帰、引退を宣言しての入院・リハビリ、退院してからのヒーローショーのアルバイト(そこでの「リーダー」との対峙)、高校四年目の最後の大会、などなど。
様々なエピソードが次々と登場してくるのだが、細かな部分が丁寧に描かれているし、文章にリズムがあるので、読んでいるとどんどん引き込まれる。
そして二度目の、本当の引退。その後卒業を間近に控えて、「僕」から音楽が生まれる。最初、この本はCDを聴きながら読むために書かれたものだと思っていた。しかしおそらく、CDに収録された歌の内容よりもよりも前の時代を描いた物語なのだろう。『あし』の最後は、『MY
NAME IS!!!』の最初につながっている。そんな印象を抱いた。
そして、最後まで読み終えると、最初の工場街を訪れる「僕」の様子も、実際にあった出来事ではないかと思えてくる。最初はなんともシュールな光景だと思っていたのに、今ではなんとなくにリアルに感じてくる。そんな、不思議な味わいのある物語だった。
レビュアー:木の葉燃朗の「本と音楽の日々」
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